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  • 2021.01.26
  • 遺言執行者とは?役割と、指名された際に取るべき行動

遺言執行者

遺言執行者とは、遺言内容を実現するために、
相続財産の管理、その他遺言の執行に必要な一切の行為を実行する者です。
遺言書の中で、遺言者が、遺言執行者を指定するケースが一般的です。


遺言執行者になるとどのような仕事内容があるのか?
どのようなケースで選任すべきか?

実務に即して説明していきたいと思います。
遺言執行者は、相続をスムーズに進めるためには、なくてはならない存在です。

 

遺言執行者とは?


遺言執行者とは、何でしょうか。


民法第1012条によると、遺言執行者は、
「遺言内容を実現するため、相続財産の管理その他
遺言執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」とあります。


簡単に言ってしまえば、遺言の内容を実行するため、
必要な手続きの一切を行うことができる人ということでしょうか。


例えば、相続人に対する遺言の場合は、
「相続に関する名義変更関係のほとんどは、遺言執行者のハンコだけで書面を完結できる」
と言い換えることもできそうです(※)。


通常、相続の手続きは、相続人全員または財産承継する
一部の相続人自身が直接行う必要があります。
「相続人全員の署名押印がないと進まない」というのは、よくあるケースです。


ところが、遺言執行者がいれば、その者の本人確認や署名押印だけで、
通帳や投資信託などを解約し、登記手続きも行うことができます。

遺言執行者が選任されると、相続に関わる手続きを遺言執行者だけで行えるようになり、
名義変更の手続きや遺産の分配を円滑に進められるようになります。


とはいえ、「遺言執行者は何でもできる」ということではありません。

遺言書に定められた内容を実現することしかできません。

遺産分割協議や相続放棄などは、相続人のみが行うことができます。

遺言執行者自身が、遺産分割協議の内容を変更したり、
特定の相続人の放棄を行うということはできません。


(※)相続人以外の者へ遺贈する旨の遺言の場合は、
遺言執行者だけでなく、受遺者のハンコも必要となってきます。

 

遺言執行者が必要なケースは2つ

 

遺言執行者を、遺言書に定めるか否かは任意です。
ですが、手続上の問題で、遺言執行者の選任が必須とされるケースもあります。
遺言による「相続廃除」と「認知」です(※)。

相続廃除とは、相続人の中に遺言者に対して虐待や侮辱、
著しい非行をした人がいる場合に、相続人の権利を剥奪し、
財産を渡さないようにするものです。

相続廃除の手続きは、必ず家庭裁判所に対してその請求を行う必要があります。
そのため、遺言によって相続廃除を行う場合は、遺言者の死後、
家庭裁判所に対して手続きをするために、遺言執行者が必要となります。


もうひとつが認知です。
認知とは、父親が子(非嫡出子)に対して、血縁上の親子関係を認める行為のことです。
難しい内容ですが、以下リンクに具体例がありますのでご確認ください。

 

→参照:遺言書を作成しておきたい5つのケース


遺言で認知をする場合は、遺言者に代わって遺言執行者が認知届けの手続きを行います。


(※)そのほかに「一般財団法人の設立」も遺言によって行うことができ、
その際にも手続き上の必要性から、遺言執行者の選任が必須とされています。
レアケースであるため割愛いたします。また、「選任が必須」ではないのですが、
遺言により相続人以外の方へ財産を残す「遺贈」を行う場合は、
遺言執行者を選任すると手続きが圧倒的に円滑に進められます。

 

遺言執行者の仕事内容

 

遺言執行者の仕事はシンプルで、遺言の内容を実行することです。

遺言者が亡くなったらすぐに相続が開始されます。
選任されたら、その就任を承諾するか断るかを相続人に通知します。
意思表示は、口頭でも書面でも構いません。

任務を開始する際には、相続人に対して遺言内容を通知します。

就任承諾の旨を相続人に伝えたら、直ちに、任務を開始し、
遺言内容に従って手続きを進めます。

主な手続きは、

・財産調査
・遺言者(被相続人)及び相続人全員の戸籍等の収集
・相続財産目録の作成
・各金融機関に対する解約手続
・法務局への登記申請手続 など

細かな部分は遺言内容によって異なります。

不動産や車両など、名義変更できるものは随時変更していきます。

遺言の内容が、現金に換価したうえで金銭をもって引き渡すと
されている場合(預貯金や投資信託・株式等)は、現金化し、
預かり金としてプールして、任務終了のタイミングで経費を精算したのち、
遺言内容に従い又は相続分に応じて遺産の引渡しを行っていきます。


任務が完了したら、相続人・受遺者・利害関係人などへ任務終了通知を行い、
各種保管物(保険証券その他資料)を、相続人へ引渡しします。

一般的に、任務終了時に報告書を作成し、関係者へ説明します。

遺言執行者を選任する3つの方法

 

遺言執行者を選任する方法は、以下のとおりです。
3通りの方法があります。

 

1.遺言による指定

 

遺言書で条項を設けて、具体的に指名します。
「誰々を遺言執行者に指定する」と遺言書に記載するということです。

とはいえ遺言執行者の仕事は簡単ではないので、
あらかじめ遺言執行者の候補者とは相談しておくと良いでしょう。

一般的に遺産を多く承継する相続人を、遺言執行者として指定することが多いです。

 

2.第三者による遺言執行者の指定

 

こちらは「遺言執行者を決めてもらう人」を指定する方法です。
やや遠回りな方法ですが、相続発生時に最も望ましい人に
遺言執行者になってもらいたい場合に採用します。

 

3.家庭裁判所による選任

 

遺言に遺言執行者の指定に関する記載がない場合や、指定された人が断った場合、
指定された人がすでに亡くなっている場合等で、手続上、
遺言執行者を選任する必要がある場合は、利害関係人から、家庭裁判所に対し、
遺言執行者選任の申立をすることができます。

遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申立をします。

 

主な必要書類は以下です。

・申立書
・遺言者の戸籍謄本(死亡の記載があるもの)
・遺言執行者候補者の住民票または戸籍附票
・遺言書の写し(遺言書の検認調書謄本の写しでも可)
・申立を行う人の戸籍謄本等


申立書の様式や提出書類については家庭裁判所によって異なるので、

事前に管轄家庭裁判所に確認する必要があります。

 

遺言執行者の辞任・解任

 

遺言執行者は指定されても断ることができます。
始めから「やらない」と断る場合は周知すれば済むのですが、
一度遺言執行者を承諾した後は手続きが必要です。

途中で遺言執行者を辞任する場合は、家庭裁判所に許可を得る必要があります。
病気や怪我、高齢であることや仕事の都合など「正当な事由」があれば辞任可能です。


遺言執行者が、その任務を怠っている場合、利害関係人は、家庭裁判所に対して、
その解任を請求することができます。
こちらも家庭裁判所を通して手続きをしなければ、解任することができません。

 

誰を遺言執行者に指定すべきなのか

 

遺言書を作成するのですから、その内容がしっかりと実現されるように、
その実効性を確保する必要があります。
遺言書を作成する際に遺言執行者もセットで検討しましょう。


誰を遺言執行者と指定すべきか、悩ましいところです。
遺言執行者は、破産者と未成年以外なら、だれでも就任することができます。
ご親族、第三者(友人等)、弁護士・司法書士等の専門士業など、
選択肢は多岐にわたります。


では、専門家に依頼すべきでしょうか?


当事務所の場合、原則的に、遺言執行者は
ご家族の中から指定していただくようにお願いしております。
登記手続きや税務申告等、特殊な業務は、その遺言執行者に就任したご親族様から、
各専門家へ委任し、必要性に応じて手続きを依頼すればよいことです。

民法においても、遺言執行の実務を第三者に委託することが認められています。
必ずしも「遺言執行者は、専門家に依頼すべき」とは考えておりません。


専門家の中には、

簡単な相続にもかかわらず「遺産の〇%」と報酬を設定したうえで、
遺言執行者として、相談受任者である弁護士(法人)や司法書士(法人)等を
指定させるケースがあります。


しかし、以下に挙げるような特殊なケース以外は、
原則的に専門家が就任する必要性はないと考えております。


・相続人間で紛争が生じることが明白である。
・相続人が、かなり多い(遠縁で面識のない相続人が多い)。
・遺産総額が、高額である(自社株を持つ会社経営者やアパート経営などをしている方)。
・遺産に著作権など特殊な権利が含まれている。
・相続廃除・認知・一般財団法人を設立する等、遺言執行者選任の必要性がある。
・親族がおらず、慈善団体や親族以外に遺産を遺贈・寄付したいといったケース


相続人や遺産の内容をよく吟味してから結論を出すべきです。


遺言執行の事務は、それなりに煩雑ではあります。
専門家に丸投げできればそれなりのメリットはありますが、当然にコストもかかります。
また、相続発生は何年も先になるケースがありますので、
指定した専門家が廃業する可能性も想定されます。


遺言書作成の際、ご自身の実情を踏まえたうえで、
メリット・デメリットを天秤にかけて判断していく必要があると言えます。