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  • 2021.03.18
  • 限定承認とは|メリット・デメリット 相続放棄と何が違う?

限定承認とは?

 

限定承認は、相続で得たプラスの財産の限度で債務の負担を引き継ぐ特殊な手続きです。
亡くなった人の負債(借金等)が把握できない場合などで活用できる手続きです。

 

相続放棄とは異なるメリットがありますが、手続きが煩雑で、且つ申立ての期限もあります。
賢く相続手続きを進めたい方は早めに財産調査を行い、適した選択をする必要があります。

 

この記事では限定承認の基本的な知識とメリット・デメリットについてお伝えしていきます。
他の選択肢である単純承認や相続放棄と比較しながら理解を深めていきます。

 

限定承認とは?

 

限定承認とは、相続で得た財産を限度として被相続人の借金を弁済する相続方法です。
たとえば財産が1000万円、負債が1500万円の相続だった場合、
限定承認ではプラスの財産分1000万円と同額の1000万円までの債務を引き継ぎ、
残りの500万円の債務は引き継がれません。

 

一方で、相続財産の方が多い場合はそのまま引き継がれます。
被相続人が負債を抱えているか判断がつかない場合に有効です。

 

限定承認と相続放棄の違い

 

限定承認とよく比較されるのが相続放棄です。

 

相続放棄は、名前の通り一切の相続権を放棄することです。財産も負債も相続しません。
そのため、財産よりも負債の方がはるかに多い場合(債務超過の場合)は、相続放棄が推奨されます。
ただし、その後に財産が見つかっても、相続できなくなるデメリットがあります。

 

なお、配偶者や第1順位の相続人(子供など)が相続放棄しても、
負債が消えてしまうわけではありません。
次の順位の相続人(被相続人の両親や兄弟姉妹)に引き継がれます。

 

負債の事実を周知しないまま放棄してしまうと、家族トラブルに発展する恐れがあります。
債務超過を原因に相続放棄を行う場合は、配偶者と子供だけでなく、
被相続人の両親から兄弟姉妹に至るまで、順を追って全員が放棄していく必要があります。

 

限定承認の場合は相続権が残るので、後から発見された財産を引き継ぐことができます。
次の順位の人に相続されなくなるので、少人数で相続手続きが進められます。
借金の方が多ければ超過分を支払う必要がなくなるわけですから、一見都合の良い方法に見えます。

 

限定承認のデメリット

 

手続きが長く煩雑

 

限定承認は手続きが非常に複雑です。
どのくらい複雑であるか確認するために、限定承認と相続放棄の主な流れを見比べてみましょう。

 

限定承認の主な手続きは、以下のようになっています。

 

1.限定承認の申述

2.照会への回答や資料の補完

3.限定承認申述受理通知書の受領

4.官報公告

5.請求申出の催告

6.鑑定人選任申立て、先買権の行使

7.相続財産の換価

8.相続債権者および受遺者への弁済

9.残余財産がある場合は遺産分割および相続財産の取得

 

一方で、相続放棄の流れがこちらです。

 

1.相続放棄申述書・添付書類の提出

2.裁判所からの照会に回答

3.相続放棄が受理される

4.相続放棄申述受理証明書の交付

 

・・・このように限定承認は相続放棄と比べて明らかにやるべきことが多くなっています。
限定承認に必要な作業はこれだけではありません。
被相続人の財産や負債を調査したり、必要書類を集めたりする時間が必要です。

 

期限があるので早めに手続きする必要がある

 

限定承認は、相続が開始したことを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。

 

さらに翌月の4ヶ月以内には準確定申告を済ませなければならないので慌ただしくなります。
もし期限内に手続きを進めるのが困難な場合は、
家庭裁判所に「相続の承認又は放棄の期間の伸長」の申立を行いましょう。
期間を延長してもらうことができます。

 

財産が把握できないとこうした判断もしづらいため、
どの選択をするにせよ早めの財産調査が重要になります。

 

相続人全員で行う必要がある

 

相続放棄は単独でもできますが、限定承認は単独ではできません。
相続放棄した人を除き、相続人全員で申述手続きをしなければなりません。

 

相続人の誰かが「限定承認はしたくない」というのであれば選択できません。
相続人によってはご高齢で手続きに訪れること自体が難しい場合があります。
不慣れな相続手続きについて、相続人全員で足並みを揃えなければならないので、
ハードルが高い手続きと言えます。

 

余計な費用がかかってしまう

 

限定承認で財産が引き継がれた場合、
税制上は、被相続人から相続人に相続財産が時価で売られたものとみなされます。
それにより譲渡所得税がかかってしまう場合があります。

 

手続きを進める際には、事前に税務上のリーガルチェックが必須です。

 

このような複雑な手続きを自分だけで進めることは、困難であると言えます。
そうなると、相続に強い弁護士や司法書士、税理士に依頼する可能性が高くなります。
結果として、所得税に加えて専門家への手数料もかかるため、コスト過剰となる可能性があります。

 

上記のようなデメリットが原因かどうかは分かりませんが、
実際、限定承認の手続きは、相続放棄と比較してもはるかに利用件数が少ないのが現状です。

 

インターネット上で公開されている司法統計によりますと、
令和1年度の相続放棄申述総数が22万5000件程度であるのに対し、
限定承認の申述は650件程度です。限定承認の手続きは、圧倒的に件数が少ないことが分かります。

 

限定承認のメリット

 

散々デメリットばかりお伝えしてきましたが、もちろんメリットもあります。

 

限定承認なら、相続財産の一部を手元に残しておくことができます。

 

自宅や家宝、骨董品など、残したい遺産がある場合に限定承認が使われることがあります。
限定承認には「先買権」があるため、相続した遺産が競売にかけられても、
相続人が優先的に購入することができます。後から判明した遺産を相続できるメリットもあります。

 

・・・とはいえ、
負債が少なくプラスの遺産の方が多いことが明らかな場合は、
素直に単純承認をすれば良い話でもあります。
単純承認であればすべての遺産を相続できますので、大事な家宝も引き継げます。
限定承認はあくまで負債の方が大きく、なおかつ残したい遺産がある場合に適していると言えます。

 

財産と負債は今のうちにハッキリさせておきましょう

 

単純承認・限定承認・相続放棄のどれを選択する場合でも、
相続人は被相続人の財産調査をする必要があります。

 

財産や負債の所在や金額が判然としない時点で、相続人は時間と労力を取られることになります。
限定承認と相続放棄は相続が開始したことを知ってから3ヶ月以内に
家庭裁判所に申述する必要があるので、悠長にはしていられません。

 

相続トラブルを未然に防ぐためには、元気なうちから財産や債務を明らかにしておくことが重要です。

 

遺言書を作成しておくことで様々な相続手続きがスムーズになります。
遺言書の作成に抵抗がある方は、エンディングノートから始めてみてください。
エンディングノートは形式が自由ですので、
自分が思ったことや伝えたいことをそのまま書き記すことができます。

 

自分の死後まで負債の存在を家族に隠し通すことはできません。
ずっと秘密にし続けていると、結局は残された家族に迷惑がかかってしまいます。
財産を譲る人も、財産を引き継ぐ人も、早め早めの行動を心がけましょう。