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  • 2020.07.20
  • 認知症の方がいる場合の遺産相続・遺産分割協議について

認知症

 

近年、高齢化の影響で、被相続人が高齢であるケースが増えています。

結果、「相続人も高齢」というケースが多々あります。

 

90歳以上の年齢で亡くなられた方のケースを想像してください。

この場合、相続人(子供)は、60~70歳代であるということです。

 

相続人のどなたかに認知症の方がいる場合、

遺産分割協議が難しくなります。

できる人で話し合って決めたくなりますが

これは原則として認められないのです。

遺産分割協議は、相続人全員が参加し、全員で決定しなければ無効だからです。

 

高齢化社会に伴い相談が増加しているケースです。

ご家族内で問題を抱え込んでしまうことが無いよう

早めに相続のプロに相談すべきです。

 

この記事では、相続発生後に慌てないように

具体的な対応策をお伝えしていきたいと思います。

 

相続人に認知症の方がいる場合

 

相続人の中に認知症の方がいる場合、

法律上、遺産分割協議・相続手続きを進めるには、

「成年後見制度」を利用する必要があります。

 

成年後見制度を利用して成年後見人等を選任してからでなければ

各種相続手続きを進めることはできません。

 

家族だからと勝手に決められることではありません。

制度を利用しないまま本人に代わって勝手に署名押印してしまうと

無効になるどころか「私文書偽造罪」になる可能性もあります。

 

遺産分割協議は、相続人全員が参加し、全員で決定しなければ無効です。

ですので、意思能力が減衰した相続人については、

後見人等が代理または同意をしなければ、遺産分割協議を進めることができません。

 

<成年後見制度とは>

 

認知症だけでなく知的障害、精神障害など

自分の意思で判断することが難しい方を保護し、自立を助ける制度があります。

それが「成年後見制度」です。

 

本人または親族等が、家庭裁判所へ申立を行い、

裁判所が成年後見人等(※)を選任します。

 

後見人等が本人に代わって法律行為を行い、

または、本人の行う一定の法律行為について、

保佐人・補助人の同意がないと有効とならない旨を規定することで、

本人を保護する制度です。

 

※意思能力の度合いに応じて、成年後見人、保佐人、補助人が選任されます。

 

ところで、弁護士や司法書士が、後見人に選任された場合、

毎年それなりの報酬が発生しますので注意が必要です。

 

弁護士や司法書士などの専門家後見人が選任されるか否かは、

ご家族等の意見を踏まえたうえで、裁判所が一方的に決定します。

 

原則として、裁判所は、親族後見人を推しているようですが、

事案の複雑さや相続人間の争いの有無などを踏まえて、

専門家後見人が選任されるケースもありますのでご承知おきください。

 

相続人に認知症の方がいる場合の対策は?

 

成年後見制度を利用するには手間も費用もかかります。

できる限りスムーズに進めたいのでしたら

生前にしっかり対策しておく必要があります。

 

①遺言書

 

これが基本です。

 

誰に何を相続させるか、生前に決めてしまうということです。

また、遺言書で、遺言執行者を指定することで、

認知症の方に対しても相続財産を円滑に承継させることができます。

 

認知症の人にも住居などを相続させたい場合も、配偶者居住権を設定するなど、

その生活基盤を守るような設計が可能です。

公証人を絡めて公正証書遺言を作成し、法的にゆるぎない、

しっかりとした遺言書を残しておくことが大切です。

 

なお、遺言で指定されなかった遺産については

遺産分割協議が必要になってしまいます。

可能な限り、すべての遺産について、漏れなく遺言書へ記載するよう心がけてください。

 

②民事信託

 

近年、相続・認知症対策として、民事信託が活用されています。

事例で考えてみましょう。

 

<事例>

 

高齢の夫婦で、夫は賃貸アパートを所有しています。

妻は、すでに認知症です。

子どもは、近居の長男と遠方に住む次男がいます。

このようなケースで、夫は、自分の死後、

妻の生活をどのように守っていくか頭を悩ませています。

賃貸アパートを妻に相続させて、賃料で生活を保障してあげたいのですが、

本人には、すでに管理能力がありません。

また、夫自身も高齢で自分が認知症になってしまうのではないかと

常々心配しているというケースです。

 

このような場合、夫と長男が民事信託の契約を結び、

事前に夫の所有のアパートを長男へ信託し、

賃貸アパートの管理処分権を全て移してしまいます。

 

こうすれば、夫が認知症となっても、長男がアパートの管理を継続することができます。

また、夫死亡後、受益権(今回のケースでは、賃料の収受権と考えてください。)を

妻へ移すように契約であらかじめ規定することで、

夫の死後、妻の収入基盤を安定させることが可能です。

 

信託の委託者:夫

信託の受託者:長男

信託の当初の受益者:夫⇒夫の死亡後は、受益者を妻へ変更する。

 

※理解しやすくするため、税務上の問題など、詳細な論点は省略しております。

 事例は、簡略化したケースですので、実際に民事信託をご検討の方は、

 専門家へご相談ください。

 

放置したらどうなる?

 

①相続人が認知症を発症

 

やっかいなのは

「後回しにしていたら、相続人の中のひとりに認知症が始まってしまった。」

というケースです。

 

この場合は、原則に立ち戻り、成年後見制度を利用するよりほかありません。

想像したくないかもしれませんが、起こりうることですし

残されるご家族も困ることになります。

 

早め早めに手続きを進めることをお勧めいたします。

 

②法定相続

 

遺言書がなく、成年後見制度を利用しない場合は

民法の規定に従い、法定相続分通りに相続されることになります。

預金や現金のような、分けられる財産であれば、さほど問題とはならないかもしれません。

 

しかし、分けられない遺産はどうでしょうか。

たとえば、不動産は法定相続分に応じた共有状態となります。

以後、原則的に、共有者全員の合意がなければ処分や増改築等ができなくなります。

 

③罰則はあるか?

 

相続手続き、不動産登記などの名義書換は、放置すると罰則があるのでしょうか。

この質問は、実は非常に多いです。

結論として、ほとんどの手続きについて、罰則規定はありません(※)。

 

しかし、前述のように相続人が認知症となってしまうケースや、

放置している間に相続人に相続が発生したり(数次相続)、

相続人のなかで懐事情が変わったりすることで、時間が経過するほど、

相続発生後の遺産分割が困難になることは、頭に入れておく必要があります。

 

※株式会社などの役員の登記を放置すると、過料に処せられます。

被相続人が会社役員の場合は、ご注意ください。

 

いくらネットで調べても「あなたの場合」の最適解はわかりません。

 

遺言書が有効になるのか?

成年後見人は必要なのか?

法定相続ならどうなのか?

考えなければならないことは多くありますが、

それをすべてあなただけで進めることは難しいと思ってください。

 

仮にあなたの事情に似通った事例がネット上で見つかったからといって

あなたやあなたのご家族の場合で同じ対応になるとは限りません。

 

相続については、法律や税の問題が生じます。

ですから、自己判断・自己解決で進めるのは困難であるといえます。

 

相続のプロに遠慮なく相談をして

適切な手続きを進められるようにしていきましょう。